DBS法施行前に就業規則を整えなければならない3つの理由——「解雇規定があれば十分」という誤解が招くリスク
先日、ある私立学校の校長先生とお話しする機会がありました。
顧問社労士も顧問弁護士もいる学校です。それでも、DBS法(こども性暴力防止法)に対応した就業規則を整える必要性について、まったく理解されていませんでした。
「うちには、履歴を詐称して教諭になったら解雇にするという文言がある。だからそれで十分でしょ。」
残念ながら、それだけでは足りません。
なぜ施行前に就業規則を整える必要があるのか。3つの理由をお伝えします。
01|就業規則に根拠がないと、適法に懲戒処分・解雇ができない
2026年12月25日の法施行後、事業者は犯罪事実確認で「特定性犯罪前科」が判明した者や、性暴力・不適切な行為を行った者に対して、こどもと接する業務から外す「配置転換」「懲戒処分」「解雇」といった防止措置を講じる義務を負います。
しかし、日本の労働法制(労働契約法等)や最高裁判例では、
あらかじめ就業規則に「どのような行為をしたら、どのような処分を受けるのか(懲戒事由と懲戒種別)」を定めて従業員に周知しておかなければ、使用者は労働者を懲戒処分することができない。
とされています。
「重要な経歴の詐称→解雇」という規定だけでは不十分です。「犯罪事実確認で特定性犯罪前科が判明した場合」「不適切な行為を行った場合」「犯罪事実確認に応じなかった場合」などの懲戒事由と処分を、事前に就業規則に明記して周知しておかなければ、いざという時の処分が無効となり、不当解雇などの重大な労働トラブルに発展するリスクがあります。
02|後から作ったルールを「過去の行為」に遡って適用することはできない
就業規則に懲戒規定を設ける「前」に行った行為に対して、後から遡って懲戒処分をすることは、日本の法律上認められていません。
施行日以降に発覚した事案や採用時の経歴詐称に確実に対処するためには、法の施行前の段階から、以下の内容を就業規則に規定し、機能させておく必要があります。
- 不適切な行為の禁止
- 特定性犯罪前科に関する申告義務
- 犯罪事実確認の手続きに応じる義務
- これらに違反した場合の懲戒事由と処分
「施行されてから就業規則を作ればいい」では遅いのです。施行後に起きた事案でも、施行前から就業規則に規定されていなければ適切に対処できない場合があります。
03|「今すでに働いている職員」にも制度が適用される
DBS法の犯罪事実確認等の措置は、新しく採用する人だけが対象ではありません。法律の施行時点ですでに働いている「施行時現職者」も対象となります。
施行時現職者については、法施行(2026年12月25日)から3年以内に犯罪事実確認を行うことが義務づけられています。具体的には、現職者本人がこまもろうシステムを通じて戸籍等の必要書類を直接こども家庭庁に提出し、こども家庭庁が審査の上、事業者に犯罪事実確認書を交付します。
ただし、「3年以内ならのんびりしていい」というわけではありません。
3年という期間の中で、こども家庭庁から確認の時期が割り当てられます。事業者が自由に時期を選べるわけではなく、割り当てられた時期に対応できるよう、あらかじめ準備を整えておく必要があります。
その準備として欠かせないのが、就業規則の整備と周知です。現職者に対して——
- 犯罪事実確認への協力義務(戸籍等の書類提出を含む)を負わせること
- 万が一特定性犯罪前科が判明した際に適切に配置転換等の措置を講じること
- 確認を拒否した場合の懲戒事由を明確にしておくこと
——ができるようにするためには、施行前に就業規則を整備し、「法律の施行後はこうしたルールが適用されます」と周知・伝達しておくことが不可欠です。周知のないまま施行を迎えた場合、現職者への措置が適法に行えないリスクがあります。
「うちには顧問社労士も顧問弁護士もいる」——では、なぜ動いていないのか
冒頭の校長先生のように、顧問の専門家がいても対応が進んでいないケースは少なくありません。
理由のひとつは、DBS法が就業規則に与える影響を、専門家側も十分に把握しきれていない場合があるということです。就業規則の作成・改定は社労士の専門業務です。DBS法への対応を積極的に進めている社労士に相談することが、最も確実な対応になります。
施行まで残り半年あまり。今から動けば、十分に間に合います。
「就業規則をDBS法に対応させたい」「何から手をつければよいかわからない」という方は、ぜひ一度ご相談ください。社会保険労務士・行政書士のダブルライセンスで、就業規則の整備から書類作成まで、ワンストップで対応します。


