「まだ誰も研修を受けていない」では遅い——DBS法の研修項目と受講期限
DBS法(こども性暴力防止法)では、こどもと接する業務に従事するすべての従事者に、事業者が研修を受けさせることが義務づけられています。
「研修って何を学ぶの?」——今回は、こども家庭庁のガイドラインに定められた研修の8つの項目(ア〜ク)を、一つずつ解説します。
なお、研修は座学と演習を組み合わせたものである必要があります。動画を見るだけでは不十分で、ディスカッションや事例検討などの演習を組み合わせることが求められています。
ア|こどもの権利等についての基礎的事項
最初の項目は、こどもの権利についての理解です。具体的には次の内容を学びます。
- こどもは一人の人間として人権を持ち、成長の過程で特別な保護や配慮が必要な存在であること
- こどもの同意があったと主張して性暴力を正当化することは、こどもの意見を尊重することには決してならないこと
- 法の概要(趣旨、対象事業者等)
- こどもに対する性暴力の特性(被害の深刻さ、被害の発見・開示のしづらさ、被害の相談・開示までのプロセス等)
- 加害者個人に起因する要因(「認知の偏り」「性的手なずけ(グルーミング)」等)
- 環境に起因する要因(支配性を有する立場等)
「こどもが同意した」という言い訳が通用しないこと、そしてグルーミング(性的手なずけ)の手口を知ることがここに含まれています。以前のブログでグルーミングについて詳しく解説しましたが、まさにこの研修項目の一部です。
イ|児童対象性暴力等及び「不適切な行為」の範囲
次は、何が「性暴力」で、何が「不適切な行為」にあたるのかを学びます。
- 児童対象性暴力等には、わいせつな言動、盗撮等が含まれること
- 児童対象性暴力等につながり得る「不適切な行為」は、各事業者においてルールを設定し、関係者で認識を共有することが重要であること
「不適切な行為」は、各事業者で職員と話し合って決めるものです。研修でその範囲を学び、職場全体で認識を共有することが求められています。
ウ|児童対象性暴力等及び「不適切な行為」の疑いの早期発見
被害の疑いをいかに早く発見するかを学びます。こどもへの性暴力は、発見が遅れるほど被害が深刻になります。日常の中でどう気づくか——その視点を養うことがこの項目の目的です。
- 日常観察及び面談・アンケートの留意点
こどもの様子の変化(元気がなくなった、特定の職員を怖がるなど)に早期に気づくための観察のポイントを学びます。
エ|相談、報告等を踏まえた対応
被害の疑いを把握したとき、どう動けばいいかを学びます。
- 被害等の相談を受けた際の心構え・対応の留意点(寄り添い、二次被害・記憶の汚染の防止等)
- 対象業務従事者が行う具体的な対応の流れ(疑い段階から重く受け止めて、ルールに則って速やかに報告すること等)
- 対象事業者が行う具体的な対応の流れ(事実確認からおそれの判断・対応の決定まで)
特に大切なのが「二次被害・記憶の汚染の防止」です。こどもから話を聞くときに、誘導的な質問をしてしまうと、こどもの記憶が汚染されてしまい、後の調査や裁判に影響することがあります。相談を受けたとき、どう接するかを正しく学ぶことが求められています。
オ|被害児童等の保護・支援
被害を受けたこどもと保護者への対応を学びます。
- 被害児童等・保護者への真摯な対応
- 見守り・寄り添い等の例
被害が明らかになった後も、こどもと保護者へのケアは続きます。「どう寄り添うか」「どんな言葉をかけるか」——その具体的な対応を学びます。
カ|犯罪事実確認において対象業務従事者に求められる対応
DBS法の核心である犯罪事実確認について、従事者の立場から学びます。
- 犯罪事実確認の手続の全体像
- 対象業務従事者に求められる対応
従事者は、こまもろうシステムで戸籍情報を提出するなどの手続きが必要です。「なぜこういう手続きをするのか」「何が確認されるのか」を従事者が理解していることが、スムーズな実施につながります。
キ|防止措置の基礎的事項
犯罪事実確認の結果、特定性犯罪事実該当者であると認められた場合の対応を学びます。
- おそれがあると認められる場合
- 防止措置の内容(内定取消し・本採用拒否・配置転換等)
従事者にとっては「もし前科があったらどうなるのか」を知る機会でもあります。事業者にとっては、防止措置を適切に実施するための基礎知識を身につける機会です。
ク|厳格な情報管理の必要性
最後は、犯罪事実確認で得た情報の管理について学びます。
- 対象事業者に課せられる情報管理措置の内容(性犯罪歴に関する適切な情報の取扱い等)
犯罪事実確認で得た情報は、極めて機微な個人情報です。みだりに他人に教えた場合は刑事罰が科されるだけでなく、民事上の損害賠償請求の対象にもなります。情報の取扱いについて、全従事者が正しく理解していることが求められています。
研修はいつまでに受ければいいのか
研修の受講時期については、Q&Aで次のように定められています。
- 新規採用者・認定後に新たに従事する者:対象業務に従事する前までに受講
- 学校設置者等の施行時現職者:法の施行前(2026年12月25日まで)に受講
- 認定事業者等の認定時現職者:認定申請前に受講
施行まで残りわずかです。「まだ誰も研修を受けていない」という施設は、今すぐ計画を立ててください。こども家庭庁が標準の研修動画を公表しています。座学(動画視聴)だけでなく、演習(職場でのディスカッション等)もあわせて実施することが必要です。
2026年9月のガイドライン改訂で、施行前(または認定申請前)に内定していた方の受講時期が明確化されました。詳しくは「DBS法の研修、いつまでに受ければいいの?」で解説しています。
「研修をどう実施すればいいかわからない」「就業規則の整備とあわせて相談したい」という幼稚園・保育所・学校、学習塾・スポーツクラブなど、こどもと接する事業を営むすべての事業者の方は、ぜひ一度ご相談ください。社会保険労務士・行政書士のダブルライセンスで、ワンストップで対応します。


