【速報】DBS法「横断指針」108ページを社労士が読み解く──3つの注目ポイント
2026年8月21日、こども家庭庁が「教育・保育等を提供する事業者による児童対象性暴力等の防止等の取組を横断的に促進するための指針」(横断指針)の令和8年8月改訂版(全108ページ)を公表しました。
DBS法(こども性暴力防止法)の2026年12月25日施行まで、残り約4か月。この横断指針は、幼稚園・保育園・学校・児童福祉施設・放課後児童クラブ・NPOなど、こどもに関わるすべての事業者が取り組むべき防止措置の「共通のものさし」です。
108ページに及ぶ文書の全体像と、実務上とくに重要な3つのポイントを速報としてお伝えします。
横断指針とは何か
DBS法では、対象事業者に対して児童対象性暴力等の防止等のための措置を義務づけています。しかし、事業の種類は多岐にわたります。幼稚園と放課後児童クラブでは現場の状況が違い、学校とNPOでは組織体制が異なります。
そこで、こども家庭庁は事業の種類を横断して共通する考え方や取組の方向性を示すものとして、この「横断指針」を策定しています。各事業分野の個別指針・ガイドラインの「上位に立つ共通フレーム」と位置づけられます。
今回公表されたのは令和8年8月の改訂版で、法施行を見据えてより具体的な内容に踏み込んだものになっています。
全体構成(全108ページ)
横断指針は、以下のような章立てで構成されています。
第1章 では、指針の目的・位置づけや基本的な考え方が示されています。ここで早くも実務に直結する重要なコラムが登場します(後述の注目ポイント①)。
第2章〜第4章 では、防止措置の具体的な内容──研修の実施、相談体制の整備、環境づくりなど──が体系的に整理されています。
第5章 は、事案が発生した場合の対応について詳細に記載されています。ここに今回の注目ポイント②と③が集中しています。
注目ポイント① 「不適切な行為」の判断は一律ではない(第1章 p.8〜9)
DBS法対応を進めるうえで、現場からもっとも多く聞かれる質問の一つが「どこからが"不適切な行為"にあたるのか?」です。
横断指針の第1章(p.8〜9)に設けられたコラムでは、この問いに対して重要な考え方が示されています。
不適切な行為かどうかの判断は、事業内容・こどもの発達段階・現場の具体的状況によって変わるというのがその趣旨です。
つまり、全事業者に共通する「これをやったらアウト」という一律のリストがあるわけではありません。同じ身体接触であっても、乳児の保育における着替えの介助と、小学校高学年に対する行為では、意味合いがまったく異なります。
この考え方は実務上きわめて重要です。就業規則や内部規程に禁止行為を列挙するだけでは足りず、自園・自施設の事業特性やこどもの年齢層を踏まえて、「自分たちの現場ではどういう行為が不適切にあたりうるのか」を具体的に検討し、研修等を通じて職員間で共有しておく必要がある、ということです。
実務へのヒント: 就業規則の服務規律や児童性暴力防止規程を整備する際、厚労省モデル就業規則の条文をそのまま使うだけでなく、事業の実態に合わせた具体例や判断基準を別紙・マニュアルとしてセットで用意することが求められます。
注目ポイント② 事案発生時の「3区分対応フロー」(第5章 p.70)
万が一、児童対象性暴力等が疑われる事案が発生した場合、事業者はどう動くべきか。横断指針の第5章(p.70)では、事案を3つの区分に分けた対応フローが示されています。
この3区分対応フローは、「事案の深刻度や確度に応じて対応のレベルを分ける」という考え方に基づいています。すべての情報を一律に重大事案として扱うのではなく、段階的に対応を整理することで、初期対応の的確さとスピードの両立を図る構成です。
現場で実際に起こりうるのは、「うわさレベルの情報」から「被害申告が明確な事案」まで幅広いケースです。園長や施設長が一人で判断を抱え込まないためにも、この3区分の考え方をあらかじめ組織内で共有しておくことが重要です。
実務へのヒント: 対応フローは、横断指針の図をそのまま社内資料として活用するだけでなく、「自園ではだれが初動判断をするのか」「どの段階で外部(行政・弁護士等)に相談するのか」を具体的に決めておく必要があります。就業規則の懲戒条項・報告義務条項との連動も忘れてはなりません。
注目ポイント③ 懲戒処分と就業規則の関係(第5章 p.94コラム)
横断指針の第5章(p.94)のコラムでは、懲戒処分と就業規則の関係について触れられています。
これはDBS法の文脈だからこそ重要なポイントです。児童対象性暴力等を行った職員に対して懲戒処分を行うためには、就業規則上の根拠が必要です。就業規則に懲戒事由として明記されていなければ、仮に重大な行為があったとしても、法的に有効な懲戒処分を行うことが困難になります。
社会保険労務士として強調したいのは、「処分の根拠は、事案が起きてから作るのでは遅い」ということです。DBS法施行までに、就業規則の懲戒条項を点検し、児童対象性暴力等に関する行為を懲戒事由として明確に規定しておくことが不可欠です。
とくに10人未満の小規模事業所で、就業規則の作成義務がないことを理由に整備を後回しにしているケースは要注意です。DBS法の防止措置義務は事業所の規模を問いません。就業規則がなければ懲戒処分の法的根拠を欠くことになり、事案発生時に事業者として適切な対応がとれなくなるリスクがあります。
実務へのヒント: 就業規則がすでにある事業者は、懲戒事由に「児童対象性暴力等に該当する行為またはそのおそれのある行為」が含まれているか、今すぐ確認してください。10人未満で就業規則がない事業者は、DBS法施行を機に就業規則を新規作成することを強くお勧めします。
まとめ──施行まであと4か月、今やるべきこと
横断指針の改訂版公表によって、DBS法の実務対応に必要な情報がさらに具体化されました。
108ページという分量に圧倒されるかもしれませんが、まず押さえていただきたいのは今回ご紹介した3つのポイントです。
- 「不適切な行為」の判断は現場ごとに異なる → 自園・自施設に即した基準の整理が必要
- 事案発生時は3区分で対応を整理する → 対応フローの事前策定と組織内共有が必要
- 懲戒処分には就業規則上の根拠が不可欠 → 就業規則の点検・整備は施行前に完了させる
DBS法施行まで、残された時間は決して長くありません。「何から手をつければいいかわからない」という事業者の方は、まず就業規則の点検から始めることをお勧めします。
横断指針の原文は、こども家庭庁のホームページからダウンロードできます。 本記事は2026年8月22日時点の速報です。今後、個別の論点について詳しく解説する記事を順次公開してまいります。
当事務所では、DBS法対応の就業規則整備・児童性暴力防止規程の策定・研修体制の構築まで、ワンストップでサポートしています。社会保険労務士・行政書士のダブルライセンスで、届出から規程整備まで一括対応が可能です。お気軽にご相談ください。


