こども家庭庁「横断指針」を読む②──こどもへの聴き取り、やってはいけないこと

前回のブログでは、こども家庭庁「横断指針」が示した事案発生時の3区分対応フローについて解説しました。

今回は、事案発生後にもっとも慎重な対応が求められる場面──被害児童等への聴き取りについて、横断指針(第5章 p.74〜80)が示す留意点を整理します。

聴き取りの場面は、事業者にとって「何を聞くか」だけでなく、「何をしてはいけないか」の方がはるかに重要です。誤った聴き取りは、こどもの心に二次被害を与えるだけでなく、記憶の汚染を引き起こし、司法手続において証言の有効性を失わせるリスクがあるからです。

聴き取りの目的と対象

横断指針では、聴き取りの目的として、主に次の4つが挙げられています。

  • ①事実確認
  • ②被害児童等の保護・支援の検討
  • ③再発防止策の検討
  • ④処分内容の検討

何を目的としているかによって、聴き取り対象や聴き取り事項が異なります。事実確認が目的なら被害児童等・加害が疑われる者・第三者のすべてが対象になりますが、保護・支援が目的なら被害児童等が中心になります。

被害児童等への聴き取りを最低限にとどめるべきケース

横断指針では、次のようなケースでは、被害児童等への聴き取りを最低限にとどめ、関係機関や専門家と連携して対応することが望ましいとしています。

  • 児童等本人が乳児である、心身衰弱しているなどにより、聴き取りに特に専門性が求められる場合(このような場合、必要に応じて保護者への聴き取りも実施)
  • 加害者の本人特定や加害の内容に明らかな客観証拠があり、児童等への聴き取りの要否を警察等と相談するべき場合
  • 被害児童等及びその保護者が、聴き取りを拒否している場合

聴き取り担当者・場所・時間の留意点

担当者について

被害児童等への聴き取りは、適切な聴き取り方法を学び身に付けた従事者1名が実施することが望ましいとされています。複数人から行うと児童等が混乱するためです。また、児童等の話を客観的に聴くことができる者を立会(記録)者とすることが推奨されています。

児童等によっては、初対面の者には心を開かず、信頼関係のある従事者であれば回答してくれるケースも見られるため、「児童等が真実を話しやすい相手は誰か」との観点から、誰がどのように聴き取るか、適切に決定することが重要とされています。

また、面接者と立会者が、児童等がいる場で話し合うことは、児童等の不安の高まりや記憶の汚染につながり得るため、控えることが望ましいとされています。

場所について

他の人に話の内容を聞かれず、話が中断されることのない、静かな落ち着いた場所で行うとされています。

聴き取り担当者による圧力やプレッシャーを軽減するために、面接者と児童等は向かい合うのではなく斜めに並ぶ配置が推奨されています。立会(記録)者は児童等の視界に極力入らない場所に座る等の配慮も有効とされています。

時間について

聴き取り時間が長くなり、児童等に負担がかからないよう配慮するとされています。

聴き取り時の7つの留意点

横断指針のp.78の表では、聴き取り時の具体的な留意点が詳しく示されています。ここでは、その中からとくに重要な7つを整理します。

① 感情的な対応にならない

児童は最初からすべてを開示することはなく、事実を一部だけ話して相手の様子を見て、この人にそれ以上話をしても大丈夫か感じ取ろうとするとされています。それに対して、大人が怒りや動揺を見せたり、児童を非難したりすると、児童はそれ以上話ができなくなります。

② 無理に聴きすぎない

児童が積極的に話をする場合には遮る必要はないものの、あれこれ質問しすぎないように留意するとされています。

③ 誘導や圧力にならないようにする

「〇〇さんから〜〜と聞いた」は誘導につながる表現なので避けるとされています。

また、「WHY」は児童にとっては「非難されている」との圧力になるとされています。「なぜそこに行ったの?」ではなく、「どういうことがあって、そこに行くことになったの?」等と「HOW」に言い換えることが推奨されています。

④ 開示をほめ過ぎない

開示を褒めるのは、聴き取りの最後にするとされています。開示直後にそれを伝えると、児童は「ほめられた」「もっとほめてもらおう」と思い、話を作ってしまうこともあるとされています。

⑤ 他の人が同じ話を聞くことは避ける

被害体験を忘れたいと思っている児童にとって、何度も話を聞かれてそれを思い出させられることはトラウマ体験をより深めることになるとされています。また、児童の話の内容や記憶そのものが変化してしまうリスク(記憶の汚染)もあるとされています。

⑥ 分からないことは言わない、できない約束はしない

「誰にも言わないからお話しして」等、児童に嘘をついて裏切ることになると、その後の信頼を失うことになるとされています。

⑦ 次に相談できる機会を提供する

最初の聴き取りでは、児童は開示への心の準備ができていないかもしれないとされています。話をする時間を取ってくれたことをねぎらうとともに、「話したくなったらまた聴かせてね」と次の開示の機会もあることを伝えることが推奨されています。

記録上の留意点

横断指針では、聴き取りの記録について次のように示しています。

  • 聴き取りの日時、場所、聴取者・立会者、聴き取り内容等を記録する
  • 本人に負担感がないか十分に確認した上で、録音・録画をすることが、正確な記録を残す上で有効と考えられる(本人に抵抗感がある場合は、無理をさせない)
  • 録音・録画が難しい場合は、聴取者と被害児童等の発言を、用いられた表現や言葉をそのまま記録に残すよう努める
  • できれば、その時のこどもの服装、表情、話す様子なども記録しておくとよい。ただし、聴き取り者が「どう感じたか」という「所感」については、事実とは区別して、それとわかるように記録する
  • 管理者が「いつ」「どこで」「何回」など詳細に確認することを求めないこと。管理者の求めにより、職員が聴きすぎてしまうことがある

性暴力被害によるトラウマ反応

横断指針では、被害児童等から被害の状況を聞いたときに、心身の不調を訴える可能性があるとしています。そのときは、本人や保護者に対し、このような反応が出るのは当たり前であることを説明するとともに、症状の改善に向け、早期に専門家(医師、公認心理師等)に相談することを勧めることが有効としています。

性暴力被害の一般的なトラウマ反応として、以下が挙げられています。

  • 身体反応:腹痛、下痢、便秘、生理不順、頭痛、食欲不振、不眠等
  • 情緒的反応:不安・恐怖、ゆううつ、呆然としている、気分がコロコロ変わる等
  • 行動での反応:赤ちゃん返り(退行現象)、親にくっつきたがる、一緒に寝たがる、行動が消極的、自暴自棄的な行動(自傷行為、性問題行動)をとる等
  • 思考の反応:マイナス思考、被害時のことを覚えていない等
  • PTSD症状:フラッシュバック、過覚醒症状(物音に敏感になる等)、回避症状(被害があった場所を避ける等)、認知と気分の陰性変化等

実務へのヒント

こどもへの聴き取りは、事案対応の中でもっとも高い専門性が求められる場面です。横断指針でも、事業者自身が従事者に対して、被害児童等への聴き取りに関する研修(例:RIFCR™研修)を受講させるなどして、対応できるようにすることが重要としています。

また、いざという時に相談できる専門家を、日頃から探しておくことも有効とされています(例:児童等への性暴力防止に詳しい専門家に、講演/研修をしてもらう等により関係性を築いておく)。

小規模な事業者では内部での対応が難しい場合も想定されますが、業界団体において、こうした専門家と日頃から連携し、事案が生じた場合に、加盟事業者に速やかにアドバイスできるような仕組みの構築が期待されるとしています。

次回のブログでは、「性暴力が確認された従事者への処分──就業規則との関係」について、社会保険労務士の立場から詳しく解説します。


出典:こども家庭庁「教育・保育等を提供する事業者による児童対象性暴力等の防止等の取組を横断的に促進するための指針」(令和8年8月改訂)第5章、NPO法人性暴力被害者支援センター・ひょうご「学校で性暴力被害がおこったら 危機対応手引き」(2020年6月)


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たいさんぼく社労士・行政書士事務所

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