こども家庭庁「横断指針」を読む③──性暴力が確認された従事者への処分と就業規則【社労士解説】
前回のブログでは、こども家庭庁「横断指針」が示す「こどもへの聴き取りでやってはいけないこと」について解説しました。
今回は、事実確認の結果、性暴力や不適切な行為が確認された場合の従事者への対応と処分について、横断指針(第5章 p.92〜94)の内容を、社会保険労務士の立場から解説します。
不適切な行為を行った者への対応
横断指針では、不適切な行為を行った従事者(パートタイム、アルバイト、ボランティア等を含む)に対しては、不適切行為が繰り返されないよう、指導と経過観察を行うとしています。
ここで重要なのは、単に「このようなことをしてはいけない」という注意指導だけでは不十分だということです。横断指針では次のように述べています。
その場で従事者が「注意します」と回答しても、心の中では「自分は悪くない、ルールがおかしい」と考えて、不適切な行為を繰り返すこともある。このため、なぜこのような行為を避けるべきなのかを問いかけ、本人の考えを確認しつつ、納得できるように説明する(従事者を責めるのではなく、あらぬ疑いから守ることにもつながること)ほか、こどもの権利や思考の誤り等に関する研修の再受講をさせることで、再発防止につなげることが有効と考えられるとしています。
指導したにもかかわらず、同様の行為を繰り返すような場合には、より厳格な対応を行うことが考えられるとしています。
性暴力を行った者への対応
性暴力を行った者に対しては、厳正に対応することが重要とされています。
適正な手続・プロセスを経て事実確認を行った上で、性暴力や犯罪の事実が確認された場合には、就業規則等に基づき、厳正な対応を行うとしています。
横断指針では、不適切な行為を行った者・性暴力を行った者への対応内容の例として、以下を示しています。
指導
不適切な行為がみられる従事者に対しては、従事者本人に事実確認の上、当該行為が繰り返されないよう書面による指導や研修受講命令も含めて、実効的に指導するとともに、注意深くその後の経過観察を行う。
処分
- 服務規律等と照らし合わせ、厳正な処分を行う
- 従事者の不適切な行為については、一定回数以上繰り返された場合、就業規則等に基づき、処分を行う
- 従事者による性暴力や犯罪の事実が確認された場合、就業規則等に基づき、厳正な処分を行う
- 処分等の検討に当たっては、事案に応じて、弁護士の協力を得ながら進めることも考えられる
対応時の留意事項
- こども性暴力防止法の対象事業者は、同法に基づく防止措置としてこれらの対応を行う(詳細はこども性暴力防止法施行ガイドラインⅦ. 安全確保措置(防止措置)参照)
- たとえ逮捕されても、当該従事者が児童等への性暴力の事実を否認している場合、刑事裁判上は推定無罪の状態にあるため、事業者として、「加害者」と断定するような表現は控える
- 処分等を含む雇用管理上の措置を講じる場合には、労働関係法令に従うことが求められる
懲戒処分の有効性と弁明の機会の付与(横断指針コラム p.94)
横断指針の第5章(p.94)に設けられたコラムでは、懲戒処分と就業規則の関係について、労働法の基本原則が整理されています。社会保険労務士として、この内容は非常に重要ですので、詳しく解説します。
就業規則への記載が必要
使用者は、懲戒処分(制裁)の内容を就業規則に定め、労働者に周知することが義務付けられています(労働基準法第89条及び第106条)。
使用者が制裁の定めをする場合には、その種類及び程度に関する事項を就業規則に定めなければなりません。また、就業規則を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること等の方法により、労働者に周知しなければなりません。
就業規則に定めのない事由による懲戒処分はできない
最高裁判決(国鉄札幌運転区事件 最高裁第3小法廷判決昭和54年10月30日)において、使用者は規則や指示・命令に違反する労働者に対しては、「規則の定めるところ」により懲戒処分をなし得ると述べられています。
つまり、就業規則に懲戒事由として定められていないことを理由に懲戒処分を行うことはできません。
懲戒権の濫用は無効
労働契約法第15条では、使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とするとしています。
処分の公正さが求められる
懲戒処分の対象者に対しては、規律違反の程度に応じ、過去の同種事例における処分内容等を考慮して公正な処分を行う必要があるとしています。裁判においては、使用者の行った懲戒処分が公正とは認められない場合には、当該懲戒処分について懲戒権の濫用として無効であると判断したものもあるとされています。
さかのぼっての処分・二重処分の禁止
就業規則に懲戒規定を設ける前にした労働者の行為に対して、さかのぼって懲戒処分をすることや、1回の懲戒事由に該当する行為に対し複数回の懲戒処分を行うことはできないとされています。
手続的な相当性
懲戒は、手続的な相当性を欠く場合にも、社会通念上相当なものと認められず懲戒権の濫用となる場合があるとされています。
- 必要な手続は就業規則において、事前に明確化しておくことが望ましい。就業規則や労働協約上、組合との協議や懲戒委員会の討議を経ることなどが必要とされる場合にはその手続を遵守することが必要と考えられる
- また、そのような規定が何もない場合にも、特段の支障がない限り、本人に弁明の機会を与えることが必要と考えられる
相談先
懲戒処分の検討等に当たって、労働関係法令との関係が問題になる場合等の相談先として、都道府県労働局、労働基準監督署、総合労働相談コーナーが紹介されています。
また、懲戒処分等に関する労使トラブルが生じた場合に活用可能な制度として、総合労働相談コーナーでの相談対応、都道府県労働局長による助言・指導、紛争調整委員会によるあっせんが挙げられています。
学校の場合の特別な取扱い
横断指針では、学校の場合について次のように記載しています。
- 教育職員等による児童生徒性暴力等があった場合には、懲戒免職とするなど、「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」の基本理念等も踏まえ、厳正な懲戒処分を行う必要がある
- 同法は、教育職員等による性暴力があったにもかかわらず、懲戒処分を行わず、依願退職等により水面下で穏便に済ませてしまうようなことは決してあってはならないとしている
保育所等の場合
児童生徒性暴力等を行った保育士の登録取消等については、保育士の従事先施設の種別や児童の年齢に関わらず適用されるとしています。
社会保険労務士からのアドバイス
今回の横断指針のコラムは、DBS法の文脈で懲戒処分の法的要件を整理した初めての公的文書です。この内容を踏まえ、社会保険労務士として強調したいことが3つあります。
1. 処分の根拠は、事案が起きてから作るのでは遅い
就業規則に「児童対象性暴力等に該当する行為」を懲戒事由として明記していなければ、仮に重大な行為があったとしても、法的に有効な懲戒処分を行うことが困難になります。DBS法施行までに、懲戒条項の点検・整備を完了させてください。
2. 10人未満の小規模事業所こそ要注意
10人未満の事業所には就業規則の作成義務がありませんが、DBS法の防止措置義務は事業所の規模を問いません。就業規則がなければ懲戒処分の法的根拠を欠くことになり、事案発生時に事業者として適切な対応がとれなくなるリスクがあります。DBS法施行を機に、就業規則を新規作成することを強くお勧めします。
3. 手続の公正さを事前に設計する
懲戒処分を行う際の手続(弁明の機会の付与、懲戒委員会の設置等)を就業規則に明記しておくことが重要です。手続的な相当性を欠く懲戒処分は、たとえ内容が妥当であっても、裁判で無効と判断されるリスクがあります。
出典:こども家庭庁「教育・保育等を提供する事業者による児童対象性暴力等の防止等の取組を横断的に促進するための指針」(令和8年8月改訂)第5章、文部科学省「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する基本的な指針」、東京都福祉局「都内の保育所等で保育士による児童生徒性暴力等が発生した場合の対応」
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