こども家庭庁「横断指針」を読む①──事案が起きたら最初にやること 3つの区分で対応を整理する
前回のブログで、こども家庭庁が2026年8月21日に公表した「横断指針」(教育・保育等を提供する事業者による児童対象性暴力等の防止等の取組を横断的に促進するための指針、令和8年8月改訂)の全体像をお伝えしました。
今回は、横断指針の第5章(p.70)に掲載されている「事案区分ごとの調査に関する対応例」を取り上げます。
万が一、性暴力や不適切な行為が疑われる事案が発生した場合、事業者は何から手をつければよいのか。横断指針は、事案の内容に応じて3つの区分に分け、それぞれ異なる対応の方向性を示しています。
なぜ「3区分」が必要なのか
現場で実際に起こりうるのは、「うわさレベルの情報」から「保護者からの明確な被害申告」まで幅広いケースです。すべてを同じ手順で扱おうとすると、軽微な事案に過剰対応して現場が混乱したり、逆に重大な事案への初動が遅れたりするリスクがあります。
横断指針が3つの区分を設けたのは、事案の深刻度や確度に応じて、対応のレベルを整理するためです。園長や施設長が一人で判断を抱え込まないための共通フレームでもあります。
3つの区分と対応の方向性
① 犯罪が疑われる場合
横断指針では、犯罪が疑われる場合の対応として、次のような例が示されています。
- 警察への通報や相談
- 保護者への連絡・説明
- 警察による事実確認への協力(情報保全、客観証拠の保全等)
- 加害が疑われる者への聴取(処分等に備えるため)
- 所管行政庁等の行政機関への相談
犯罪であることが明らかである、またはその疑いがある場合には、二次被害や記憶の汚染の防止等の観点から、児童等への聴き取りは最低限にとどめ、速やかに警察に通報又は相談することを徹底すると明記されています。
また、警察に通報するか判断に迷う場合にも、警察に相談することを第一に検討するとされています。
② 犯罪に該当するとは限らないが、性暴力が疑われる場合
犯罪に該当するか否かは一般の者において判断することは困難を伴うため、性暴力の疑いを把握した段階で、警察に相談することが適切な対応と考えられるとされています。
犯罪に該当するか分からない場合や、緊急の対応を必要としない場合に、警察に電話で相談できる窓口として「#9110」(平日8:30〜17:15)が紹介されています。
犯罪には該当しない性暴力が疑われる場合又は警察によるその後の捜査が行われない場合には、対応チームのメンバーを中心に、事実確認を行うことが考えられるとされています。
③ 不適切な行為が疑われる場合
施設・事業所・組織の長や副長、管理職等、あるいは対応チームが、事実確認を行うことが考えられるとされています。
なお、当初は「不適切な行為」のみと思われていたものの、調査をしていく中で、性暴力が発覚する場合があることに留意し、そのような場合には、①又は②のケースとして対応するとされています。
事案区分の判断に迷ったら
横断指針では、事業者において事案区分の判断に迷う/判断が困難な場合が想定されるとしたうえで、その場合には、より重大な事案区分に該当することを想定して早期に警察に通報や相談をするなどの対応が適切と考えられるとしています。
つまり、「迷ったら重い方に寄せて動く」が基本原則です。
調査にあたっての基本的な考え方
横断指針では、調査に際して以下の点に注意しなければならないとしています。
- 児童等の人権・特性に配慮するとともに、名誉・尊厳を害しないよう注意すること
- 被害児童等やその保護者の意見を踏まえながら、調査を進めることが有効と考えられること
- 配慮やプライバシーの保護等を理由に、必要な対応を怠るようなことがあってはならないこと
- 事実の有無の評価が行われる前の段階では、加害が疑われる者に対しても、その人権に配慮した公正・中立な対応が求められること
また、性暴力は、多くの事業者にとって初めて対応することになるため、対応に不慣れであることが一般的であるとしたうえで、加害の事実の確認や評価には高い専門性が求められ、適切な対応を十分にとることができない事業者が多いと想定されるとしています。
このため、適切な聴き取り、トラブル防止、証拠の保全等の観点から、弁護士等の専門家に相談して対応することも有効とされています。
障害のある児童等への対応における留意事項
横断指針では、犯罪が疑われる場合、性暴力が疑われる場合のいずれの場合も、障害者虐待防止法に基づき、市区町村が事実確認を行うとしています。事業者としては、警察のほか、自治体の障害者福祉担当課や障害者虐待防止センターへの通報をすることが適切と考えられるとしています。
ベビーシッター事業者の場合
ベビーシッター事業者が児童に直接事実確認を行うケースは少なく、保護者を通じた聴き取りがなされていることが多いとされています。対応チームにより、適切な事実確認等の対応ができることが望ましいとしています。
実務へのヒント
この3区分対応フローは、「事案が起きてから初めて読む」のでは遅すぎます。施行前の今のうちに、自園・自施設の対応ルールとして整理し、組織内で共有しておくことが重要です。
具体的には、次のことを決めておく必要があります。
- 初動判断をするのは誰か(園長?施設長?法人の責任者?)
- どの段階で外部(警察・行政・弁護士等)に相談するか
- 対応チームのメンバーは誰か
- 就業規則の懲戒条項・報告義務条項との連動はできているか
就業規則や児童性暴力防止規程に「事案発生時の対応フロー」を規定しておくこと、そしてその内容を全職員に周知しておくことが、施行前に完了させるべき重要な準備のひとつです。
次回のブログでは、横断指針が示す「こどもへの聴き取りでやってはいけないこと」について詳しく解説します。
出典:こども家庭庁「教育・保育等を提供する事業者による児童対象性暴力等の防止等の取組を横断的に促進するための指針」(令和8年8月改訂)第5章
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